今日は私がPTA会長を務める高校の入学式だ。
式開始予定の二時間前に学校に着く。
校庭に咲く桜を一刻も早く見たかったからというのもあるが、春の生き生きとした雰囲気の学校を感じたかったからだ。
いつものように車を止めて、校舎に入る。
私が過ごした高校の校舎とほとんど同じ作りのこの学校を、懐かしい思いをめぐらせながら歩く。
「こんにちは!」と私を見かけた生徒が元気よく挨拶してくれる。
こっちも大きな声で返事をする。
なかなか気持ちのいいものだ。
校庭に出て見事に咲いた桜を見る。
カメラアングルを探す。

私を見かけた事務長が「応接室を開けましたのでそちらでお待ちください」と案内してくれた。
やがて校長室へ集まる時間となり、来賓の受付を済ませて校長室へ向かう。
来賓のしるしである、胸につけた赤いリボンの花は、次女なら大喜びするだろうが、未だに恥ずかしい。
私はいつもと同じPTA会長のつもりなのだが、やはり来賓として扱われるときは、校長室にいても居心地が悪いぐらいに、丁重なおもてなしを受け、お尻がむずがゆい。
やがて副会長や来賓各位も揃い、式場である体育館へ案内されることになった。
来賓はいつもそうなのだが、すべての保護者が着席しているところへ後から入場する。
従ってこっそり座るわけにも行かず、全保護者の横を一列に歩いていかねばならない。
校長先生を先頭に歩く。
こちらに視線が注がれているのがわかり、来賓席へ座るとほっとする。
あとは教頭先生の司会により、式が進められていく。
滞りなく式も終わり、来賓の退場となる。
「ここでご来賓の方々が退席されます」というアナウンスがあると、校長先生を先頭に、視線を感じながら、またぞろぞろと出口へ向かう。
高校の入学式では小学校のように「PTA会長からお祝いの言葉」と言うような挨拶は必要ない。
しかし、入学式後に保護者へのPTA活動の説明と言うものが必要であり、それが入学式における私の役目でもある。
そのため、一旦は退場した私だが、またこっそりと式場内へ戻る。
中では今後の学校生活の説明が行われていた。
新入生が退場した後、先生から保護者向けの説明が行われる。
そして私の出番。
「それではただいまより、PTA会長の○○(私)様にご挨拶をお願いしたいと思います」
『挨拶ではないのだが』と思いつつ、前に出る。
パイプ椅子に座った240名の生徒の保護者たち。
あくびをしそうな人もいれば、熱い視線を送る人もいる。
いつものように話をする。
高校のPTA活動は小中学校と違って保護者同士の交流を深めることが目的となっていること、そういう運営をするためには皆さんの協力が必要なこと、などなど。
ある程度考えていたストーリーに自分の想いを乗せて自分の言葉で話す。
「先ほど校長先生のお話の中で子どもたちに『この学校を好きになってください』という言葉がありました。
私は保護者の皆さんにもこの学校を好きになっていただきたいと思います。
門をくぐると目の前に飛び込んできた桜並木、私はあの風景が大好きです。
そして校歌らしくないけれども、とても美しいメロディーのあの校歌、私は大好きです。
皆さんは住んでいる場所も、年齢も、暮らしている環境もさまざまでしょう。
しかし、間違いなく、一つだけ皆さんに共通しているものがあります。
それはこの学校のPTA会員であると言うこと。
この一点だけは間違いなく共通しています。
ですから皆さんも、この学校のPTA会員として交流を深め、そしてこの学校を好きになっていただきたいと思います。」
何人かは大きく頷いてくれる。
壁際に並んでいる旧役員や先生方も。
しかしここからが本当の私の役目。
各クラスに2名のクラス委員が必要で、昨年までは入学式の後、先生方が直接保護者に電話連絡して、クラス委員を引き受けてくださる方を探していた。
しかしそれは先生にとってとても大きな負担となっていた。
そこで「じゃあ、入学式のときに、私から説明をして、その場で決めましょうか」と提案した。
どうしても決まらない場合だけ、担任の先生にお任せすると言うことで。
PTA活動の説明をした後、話を続ける。
「とまあ、活動についてはここまでなんですが。
活動するにはどうしてもまとめ役のメンバーが必要です。」
と今からクラス委員を決めるための説明をした。
そして旧役員がそのクラスに一人ずつつき、直接保護者に話しかけ、委員を募った。
私は説明の中で、やってもいい人は是非挙手を、と言っていたので数名は挙手すると思っていたが、一人もおらず、とても残念に思った。
結局、4クラスは委員が決まったものの、2クラスについては未決のままだった。
少し落胆しながら会場を出る。
すると旧役員が声をかけてくる。
「いやー。まさか、あんなにスムーズに決まると思いませんでした」
意外な反応だ。
「やっぱり会長さんが説明すると違いますね」
他の役員も言う。
「会長さんの説明があったから、手を上げていない人でもこっちの説明をしっかり聞いてくれたし、すんなり決まったんですよ」
まあ、確かに普通の人よりはうまく説明も出来たし、私が声をかけて男性のクラス委員も誕生した。
みんなが「よかった」と言ってくれたので一安心だ。
さらにその後から役員会。
久しぶりにPTA会長であることを実感した一日だった。