カリント日記

バックナンバー

[先月] [目次] [来月] [最新版] [トップ]

2013年12月30日(月) 防犯委員

毎年年末になると深夜に「拍子木」を打つ音が聞こえてくる。
遠くから近づいてくる「カンッカンッ」という乾いた音と、ガラス越しに揺らぐ懐中電灯の光、そして「異常なし」の声。

自治会の防犯委員と有志による年末の夜回りが始まったのだ。

夜の9時を過ぎたころ、防寒具に身を包んだ防犯委員たちが、自治会館に集合する。

男ばかりの防犯委員の世話を焼いてくれるのは婦人部の女性。
長机が並べられ、その上には紙皿に盛られた安っぽいお菓子。
灰皿と缶ビールと、誰かが持ってきたその場所に不釣合いな少し品のいい洋酒も同じように並ぶ。
机を取り囲むようにパイプ椅子があり私もその一つに座ってビールを飲みながらみんなの話に加わる。

形の悪い餅を頭に載せた石油ストーブの番をしていた会長が、「じゃあそろそろ行くか」というと男たちは一斉に席を立ち、分厚い上着を着込み、拍子木や懐中電灯を手にして夜の町に出て行く。

町内を一周して再び自治会館に戻り、しばらく休憩して再び町内を巡る、そんな巡回が深夜1時過ぎまで繰り返される。
そんな苦労をして防犯委員が得られる対価はビールと日本酒、粗末な食べ物、そして何よりこの町を守っているという誇り。

「この町が好き」

小学生のころは、先生に褒められたくて口にした嘘だったが、今では嘘でもなんでもなく、そう思う。

汚いところも、危ないところも、迷惑なやつも、悪いやつもしんどいときも、悲しいときも、そんなマイナスなところもたくさんある町だけれど、そんな町のために一所懸命になる人がたくさんいて、その人たちがそれでも笑顔で暮らせる、この町が私は好きだ。

だから今夜も私は、拍子木を打ち鳴らすのだ。

[先月] [目次] [来月] [最新版] [トップ]

info@karintojp.com
Akiary v.0.51