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2005/05/05

        3.ゼロックス



社会人一年目のある日、「これ、ゼロックスで焼いて」と上司に頼まれ、数枚の紙を受け取った。
「はい」と返事はしたものの考え込んでしまった。

はて?『ゼロックスで焼く』とな?焼却処分するのか?なるほど受け取った紙には「社外秘」とハンコが押してある。
しかし、こんな事務所の中で紙を燃やすと煙が出てそれに反応したスプリンクラーが勢いよく水を吐き出し、それこそあたり一面水浸しになって大変な事になるんじゃないか?それとも、ここにあるいずれかの機械でなにか特殊な処理をすると大丈夫なのか・・・?

「どしたの?それじゃないよ。それは、ちょっとまずいでしょ」という上司の声にふと我に返った私は、シュレッダーの前で立ち止まっていた。
確かにまずい。紙を突っ込まなくてよかった。
胸をなでおろしながらふと横に目をやると「Xerox」の赤い文字が。
そこでようやく私は「ゼロックス」が「コピー機」の事だと気づいた。そして、小学校のとき先生が「プリントを焼く」といってコピーして持ってきたことを思い出し、ようやく「ゼロックスで焼く」が「コピーをとる」のことであると気が付いた。

ここまで読んで、「え?何?当たり前の事でしょ?そんな事も知らないの?」と思った人は申し訳ないが、周りから「おじさん」「おばさん」呼ばわりされていないだろうか。携帯型のカセットプレーヤーを「ウォークマン」、テレビゲームをすべて「ファミコン」と呼んではいないか?
固有名詞がそのまま一般名詞のように用いられているものは多い。「ホッチキス」「マジック」「セロテープ」「シャープペンシル」などなど。
それぞれ一般名詞(?)としては「ステープラー」「フェルト製のペン」「セロハン製の粘着テープ」「(早川式)金属繰出鉛筆」と呼ぶ。
いずれも商品名がそのまま一般名詞のように用いられている。
(あ。偶然にも、文房具ばっかりだ。全く新しい商品を発明しやすい分野だからなのかもしれない。)
これらの一般名詞はなんだか説明文のようで使いにくく、やはり商品名のもつ短くてインパクトがある部分に負けてしまっているのだと思う。

しかし、「ゼロックス」はどうだろう。
確かに、当時は複写機といえばXerox社の製品が有名だったし、それ以外に複写機が無かったのだから「コピー」のことを「ゼロックス」と言うのもわからなくは無い。でも、「コピー」と言う言葉はXerox社の複写機が登場する前からあっただろうし、それに「コピー」はシンプルな言葉で、使いにくい事も無いと思う。
そう考えると「ゼロックス」が「コピー」の意味で用いられていたのはどうしてなのか。
社会人一年目のあの日のように、また「ゼロックス」という言葉で悩んでしまう。




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